問題ある「性行為映像制作物の制作公表に係る被害の防止を図るための出演契約等に関する特則等に関する法律案(仮称)」について

2022年5月11日AV新法実務者会議をへて以下のような条文案が公開されました。

問題点を指摘していきます。

◉法案の問題

「性行為映像制作物の制作公表に係る被害の防止を図るための出演契約等に関する特則等に関する法律案(仮称)」という法案名から性行為、性暴力、性売買を合法化することが明確です。生配信や「着エロ」など子どもが犠牲になっている脱法行為もこの法案では規制できません。「性行為映像制作物」を「性的画像記録」に変えないと、「着エロ」や個人撮影配信、ライヴ配信での搾取を規制できません。

細かく条件を詰めれば詰めるほど、性搾取を正当化する根拠にされてしまいます。無条件取引権にしないと、人間としての尊厳、人権を守ることができません。

性暴力、性行為の撮影を合法化することは、派遣法、売春防止法、刑法などと矛盾するところが出てきます。

《性交を「強制」してはならない》と強制性を持ち込むことで、強制しなければ、性暴力しても良いという抜け道ができてしまいます。新法が規定する見せかけの同意を得て、契約して、金銭を払えば、性暴力をして良いことになり、尊厳、人権を契約でやりとりする人身取引、性売買を国が認めてしまうことになります。

スカウトについて、なんら言及がないのも不可解です。関係性依存の搾取、人身取引、性売買を路上だけでなく、ネット上で展開している最も危険な存在です。

刑罰があまりにも軽すぎます。刑法でさえ、性暴力に関しての刑罰が軽すぎると指摘されているにもかかわらず、刑法よりも軽い刑罰では、性暴力の矮小化につながります。

心身に有害だと条文案で示されているのにもかかわらず、飲酒、喫煙、ギャンブルと同様に20歳まで禁止しないことは、性行為による影響を軽視しすぎています。性行為によって引き起こされる複雑性PTSD、トラウマの過酷な現実について、法案に関わる人たちは、目を向けて欲しい。

もともと18歳19歳無条件取消権を守るための法整備を構築するために始まった議論が、一転して、搾取側を守る法律案に変わってしまった。このまま衆院を通過させてはいけない。

シンプルに、『すべての年齢に無条件取消権』が必要です。細かい規定を作れば作るほど、搾取側に有利な法律になってしまいます。

AV出演に集まる人たちの背景の問題を搾取側には無関係であるかのような条文では、現実に起きている、「性的自傷」、「トラウマの再演」を搾取している問題の解決につながりません。

出演したいと思い込まされている人に、スクリーニング、医療と福祉支援が必要です


◉法案条文について当事者からの声

爪半月さんのツイート引用

https://twitter.com/lunuladiary/status/1524341434861506560?s=20&t=AGIHG7rl2hyphfpJ3Nf3qA

自民党の骨子案は、被写体にされた女性の人権を保護するための被害防止法ではなく、業者側の利益を保護するAV業者保護法でしかありません。 業者側が主張する契約の正当性にお墨付きを与えないでください。

当初の主張通り、救済対象者を限定しない無期限無条件での取消権を保障すべきです。 且つ、仮に自分から面接に行った場合であっても、精神的ダメージの甚大さに鑑み、いつでも無条件で取消権を有効にすべきです。 社会的な誘導や構造的な強制に対する理解と対策も必要です。

本日提出された条文案「性行為映像制作物の制作公表に係る被害の防止を図るための出演契約等に関する特則等に関する法律案(仮称)」を読みましたが、法案名からして性行為の撮影頒布を合法化してますし、プロダクションを「制作公表者」と表記していて、加害と被害の関係性が伝わらない内容でした。

第三条では「出演者に対して性行為を強制してはならない」とありますが、「性行為をしてはならない」ではなく「性行為を強制してはならない」なので、これは強制でないなら撮影頒布してよいという解釈が可能です。ギャラを人質に取った状態で「同意」させて行為に及ぶことは適法となってしまいます。

(出演者という言葉も問題がありますが、)出演者が違約金を払わなくていいどころか、本来なら女性が負う心身のダメージに対する賠償金が支払われるべき内容なのに、何を言ってるのかまったく理解できない業者寄りの内容です。 これはAVプロダクションの利益を守るための法案です。

スカウトを経由しなくても、トラウマ再演や性化行動により、自ら応募し、傷付きに行ってしまう女性もとても多くいます。性的自傷行為が理解されないまま、「ドM」「ヤリマン」などと都合よく解釈され、搾取される被害も多発しています。 彼女たちに必要なのは福祉と医療です。

#AV新法に反対します

◉A V撮影現場で障害のある人や性的自傷、トラウマの再演が搾取されている問題について

障害やトラウマなどで判断力が脆弱な人が性産業に吸収され搾取され易いことを指摘した文章に対し、「障害のある人には仕事を選ぶ主体性はないと言い切ってて、障害者差別だ」と批判してる方がいましたが、知的障害や精神障害がある人に対する成年後見制度も知的障害者差別だとお考えなのでしょうか。

そうではありません。 成年後見制度は、障害や認知症などで判断力が脆弱な状態で高額の契約を組まされてしまったとき(高額なエステ勧誘、詐欺、認知症の方に高額なリフォーム契約etc…)の取消権を保障する内容を含みますが、差別ではなく、「判断能力の不十分な人を保護すること」を目的としています。

障害者支援に携わってる人や障害者の人権問題に取り組んでる方が、当該ツイートに納得してしまってること、あまりにも残念に思います。 障害者の人権について勉強してる方なら、障害のある女性を如何に性暴力から守るか、というのは避けて通れない課題ではないのですか? 必ず向き合う必要があります。

当事者の「決定」で、当事者自身が性被害に遭う場合も、「当事者の自己決定権を過小評価してはいけない、尊重すべきだ」と放置するのでしょうか。 そこで被害に遭い続けるのが当事者であっても、特性を熟知して利用する搾取者がいても、何もしないことで当事者の決定を尊重し、応援するのでしょうか。

性産業はずっとアンタッチャブルな領域で「誰も」「何も」しようとしなかったから、ここまでマーケットが膨張したのに、さらに「何もするな」と言うなら、障害者の人権問題を考えてる人たち自身が、障害者が性暴力被害に遭いやすい構造を黙認し、温存させてると言っても過言ではないのでしょうか。

今現場に吸収されてしまってる当事者を「無理矢理にでも引っ張り出して支援に繋げるべきだ!」といった主張はしてません。その世界で過剰適応してる当事者に急激な変化を強要することは難しいです。 ですが「これ以上の被害を止めるために搾取構造を解体する」ということは可能ではないのでしょうか。

爪半月さんのラブアンドピースクラブでの連載『棚卸日記』

https://www.lovepiececlub.com/author/tanaoroshi.html





 関連ページ 

性行為映像作品出演被害当事者声明

https://childrenrightsnews.blogspot.com/2022/04/blog-post.html?spref=tw

性的自傷・トラウマの再演について 白川美也子医師インタビュー

https://makog.theletter.jp/posts/bbfa3680-b644-11ec-b27a-9ffbed365c1a

AV出演による性的自傷・トラウマ再演の搾取 NHK web記事

https://www.nhk.or.jp/gendai/comment/0026/topic055.html

スカウト・ホスト色管理問題 関係性依存の搾取

https://makog.theletter.jp/posts/28e9e6d0-c44f-11ec-baf2-79537271d59e

ネットグルーミングによるスカウト問題について

https://makog.theletter.jp/posts/cc0134e0-be2f-11ec-b61e-83cf70b32044





◉条文案(2022年5月11日に公開分)









2022年5月11日に発表された条文案は、以上です。

◉条文案修正内容(2022年5月12日発表分)










◉追記 条文案修正内容(2022年5月12日発表分)の問題

当事者の要望をあげ続け、支援団体や条文審議にかかわる各党議員にお願いを続けています。
5/12までに条文に変更がありました。
しかし、まだ性交の問題などがあります。
「性行為映像制作物」→「性的画像記録」に修正すべきです。AVに限らず、「着エロ」や個撮などを含む性的画像記録全般に射程を広げて、無期限・無条件の取消権、削除権を保障すべきです
「無条件取消権」をつけられないことこそが、搾取側に都合の良い法律である証左です。
「性的自傷」「トラウマの再演」の搾取禁止は必須です。
「性的画像記録」の被写体になりたいと志願する人の背景について丁寧に分析し、契約ではなく、まず、医療と福祉支援に繋げなければなりません。

◉実務者協議が終了し、各党に示された素案が発表されました。一部報道で与野党合意案と出ていましたが、現段階では、野党はすべて賛成しているわけではありません。(2022年5月13日)

特に、性交禁止が入れられていないことで、実質性売買の合法化となります。
無条件、無期限取消権ではないことで、今より被害者が増える可能性があります。
性的画像記録と規定しないと、個撮、生配信が規制できません。
福祉、医療、支援につながることが、義務ではなく、現状、支援団体に繋がれない被害者が多い状況からも支援のスキルににも不安があります。


条文も矛盾があります。
2022年5月13日発表の素案です。与野党合意案ではありません。
こちらに素案を載せます。

※素案はこちらからダウンロードできます








2022年5月13日に公開された素案(与野党合意ではありません。)










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